『虐殺器官』ネタバレ感想&アニメと原作小説の違い|クラヴィスの心情と結末を解説
地獄からは逃れられない。だって、それはこの頭の中にあるんですから
アニメ『虐殺器官』魅力と感想です。伊藤計劃さんの小説を元に作られたアニメ。原作との違いはあったものの、わりと忠実に再現されているように感じました。
アニメ版も良かったよ。
ただ、小説の方が主人公の心情が描かれているぶん、ストーリーが把握しやすかったです。アニメだけでは物語そのものを楽しめないかもしれません。
- クラヴィスが求めていたもの
- クラヴィスがルツィアに惹かれた理由
- クラヴィスが最後に起こした行動(結末)
すべて主人公の心情に起因することが、アニメでは分かりにくくなっていました。
この辺りを最後に解説してるよ。
『虐殺器官』あらすじ&作品情報
9.11以降、テロとの戦いを経験した先進諸国は、徹底的なセキュリティ管理体制に移行することを選択し、一方で後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。そんな中、暗殺を請け負う部隊に属するクラヴィス・シェパードは、謎のアメリカ人言語学者ジョン・ポールを追っており・・・。
『虐殺器官』アニメの魅力&ネタバレ感想
©Project Itoh/GENOCIDAL ORGAN
『虐殺器官』原作小説は、けっこうグロいんです。それがアニメでは軽減されていました(グロそうなところはカットされているみたい)。
アニメで印象に残ったシーンは3つです。
- 頭の中にある地獄
- ジョン・ポールが見つけた「虐殺の文法」
- リアリティのない死
まずはアニメの魅力とレビューだよ。
頭の中にある地獄
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小説でもアニメでも印象に残ったのは同じでした。アレックスのことば、「頭の中にある地獄」。
地獄はここにあります。頭の中。脳みその中に。目の前の風景は地獄なんかじゃない。僕らはアメリカに帰って普通の生活に戻ることだってできる。だけど、地獄からは逃れられない。だって、それはこの頭の中にあるんですから
主人公クラヴィスや仲間のアレックスは、米軍「特殊検索群i分遣隊」所属の隊員です。簡単にいうと、暗殺などの汚れ仕事を生業としている軍人。
アレックスが言う「頭の中にある地獄」は、彼らのギリギリの精神状態を表していることばに感じました。
虐殺の現場に赴き、それをやめさせるための暗殺(作戦行動)をする過程で生じる光景。周りは彼らが撃ち殺してきた無惨な死体ばかりです。その中には子どもも・・・。
目を閉じればそれは消えるけど、頭の中にこびりついている記憶は永遠に消えない。普通の生活に戻っても地獄からは逃れられない。
死んだアレックスは地獄から逃れられたかな。
少し原作小説との違いにふれますが、アレックスの死因は原作とアニメで違うんです。
- 原作小説→自ら命を絶つ
- アニメ→作戦行動中に、おかしくなったアレックスをクラヴィスが射殺
なぜ変えたのかわからないけど、アレックスが抱えていた「頭の中にある地獄」の存在感が薄れた気がして残念でした。
ジョン・ポールが見つけた「虐殺の文法」と、それを使い続ける理由
各地で虐殺を引き起こしているジョン・ポールを追うことになったクラヴィスたち。
ジョン・ポールが見つけた「虐殺の文法」が『虐殺器官』の重要な部分です。ことばで虐殺を引き起こすという設定が怖くも面白い。
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虐殺には文法があるということだ
「虐殺の文法」や「虐殺器官」については、原作小説のレビューで詳しく書いています。そちらを参考に・・・。
ジョン・ポールはなぜ「虐殺の文法」を使い、虐殺を起こし続けているのか。
愛しているものを守るためです。
外側の世界で争いがおこれば、他国と戦争する余裕がなくなり、自分の周りの世界だけは平和を保てるから。
ちなみに、彼が愛している(守りたい)ものとは自分が育った環境です。スターバックスに行き、アマゾンで買い物をし、見たいものだけを見て暮らす堕落した世界や自分の周りの人々。
ちょっと悲しい理由だよね。
見たくないものは見なければいいというのには、心がズキンとしました。・・・そういう経験が私にもあるからです。
リアリティのない死
戦地に赴き、射殺していく様は心がざわつきますね。小説でもアニメでも。
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護送中のジョン・ポールのことばが胸に刺さりました。「リアリティのない死」についてです。
戦闘用に感情を調整した君の脳は、銃口を向けてくる子らを撃ち殺したとき、然るべき安堵と罪悪感を感じているか。断言してもいい。フラットだ
クラヴィスたちは感情を調整して戦っているんです。作戦行動中に心理的障害が起こる可能性をなくしたり軽減するために用いられる「戦闘適応感情調整」。そして、痛みを鈍化させる「痛覚マスキング」。
そのおかげで淡々と作戦を遂行できるんだ。
その結果、何が起こるかというと人の死にリアリティがなくなる。
アニメではクラヴィスの心情が描かれていないけど、彼はその辺りのことでも苦しんでいました。クラヴィスが抱える罪は救えないほど残酷です。
『虐殺器官』原作小説とアニメの違い
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『虐殺器官』原作小説とアニメの違いは、細かいことを挙げればいろいろあります。それは他のサイトで詳しく説明されているので割愛。
ストーリーに大きく関わるものに限定すると、クラヴィスの心情と関係すること(母の死や「死者の国」、結末の曖昧さ)ですね。カットされちゃったから物語の深みが薄れていました。
- クラヴィスが求めていたもの
- クラヴィスがルツィアに惹かれた理由
この辺りが実は重要なんだ。
クラヴィスが求めていたものは「救済」|母の死と「死者の国」について
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主人公の心情が全く描かれてないけど、クラヴィスが求めていたものは「救済」です。・・・何に対しての救済かというと、彼が背負った罪についての。
- やむなく母の延命治療を止めたクラヴィスは、彼女を殺したのは自分という罪の意識を抱えていた
- 米軍大尉として暗殺を遂行してきたが、人の死にリアリティを感じられなくて苦しんでいた
原作小説では、母の死と「死者の国」が描かれているよ。
「死者の国」は描写が少しグロくて、伊藤計劃さん独特の世界観が描かれています。
悪夢のようで、どこか安らげる夢。そこには微笑む母がいて、クラヴィスが母に罪を抱いている深層心理が伝わってきました。
クラヴィスが罪の意識に苛まれているとき、救いを求めているときに出会ったのがルツィアです。
クラヴィスがルツィアに惹かれた理由
ジョン・ポールの愛人ルツィアに惹かれるクラヴィス。彼がルツィアに惹かれた理由は、彼女なら自分を罰してくれると思ったからなんです。
『虐殺器官』原作小説にこんな文章がありました。
ぼくが必要としているのは罰だ。ぼくは罰してくれるひとを必要としている。いままで犯してきたすべての罪に対して、ぼくは罰せられることを望んでいる
「罰せられること」は、裏を返せば「救われること」でもありますね。
クラヴィスにとって、ルツィアは彼を罰してくれるたったひとりの人。
クラヴィスの背負った罪や罰されたいと望んでいることと、ルツィアに惹かれた理由はセットになっています。
彼がルツィアを求めていたのには、深い理由があったんだ。
ルツィアを失ってしまったクラヴィスの絶望を思うと胸が苦しくなりました。・・・絶望感が半端ないストーリーです。
アニメ結末を解説|クラヴィスが最後におこした行動とは?
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アニメ版『虐殺器官』の結末が少し曖昧でした。これ、アニメだけ見たらよくわからないかも。
ぼくは罪を背負うことにした。自分を罰することにした
自分を罰するために何をしたのかが描かれず終いなんだが・・・。
自分を罰するためにクラヴィスが最後におこした行動は、アメリカを虐殺の渦に巻きこむことです。ジョン・ポールが残した「虐殺の文法」を使って。
なぜそんなことをしたのか、そこに至るまでの彼の心理については小説のレビューに詳しく書いています。
なかなかすごい行動を起こしたな、彼は。
『虐殺器官』みどころ・おすすめポイント
- 頭の中にある地獄
- ジョン・ポールが「虐殺の文法」を使い続ける理由
- リアリティのない死
アニメ『虐殺器官』みどころは、クラヴィスたちの作戦行動や頭から離れない地獄、ジョンが「虐殺の文法」を使い続ける理由です。クラヴィスの心情を理解してから見るのがおすすめ。
まずは、原作小説を読もう。
もしくは、アニメを見たあとに小説を読むか。2つセットの方がより理解が深まります。